2025年8月7日、トランプ大統領が401(k)(以降、401k)で暗号資産投資を可能にする大統領令に署名しました。これを受けて、ビットコインをはじめとする暗号資産全体の価格が上昇し、8月1日に発生した米雇用統計ショック直前の価格を上回りました。
そこで、この記事では、401kとは何か、401kで暗号資産投資が可能になることがビットコイン価格に与える影響について解説します。
401kとは
401kはアメリカの企業が従業員に提供する年金制度です。アメリカ人は「フォー・オー・ワン・ケイ」と発音し、日本人は「よんまるいちけー」と呼ぶことが多いです。名称の由来は、米国内国歳入法401条k項で、この条項に制度の仕組みそのものが記載されています。
どんな制度なのかを説明すると、企業の従業員が毎回の給与から決まった額を積み立てて運用し、退職後に受け取る仕組みです。受取額は運用成績次第で増減し、成績が良ければ受取額は増えますが、悪ければ元本割れの可能性があり、元本割れしなかった場合でもインフレによる価値の目減りが起こりえます。
現在の年間積立金額の上限は2万3000ドル(約340万円)、50歳以上は3万500ドル(約450万円)です。最大のメリットは税制優遇で、課税所得から積立金額を控除でき、所得税の節税が可能です。たとえば年収500万円の人が年間50万円を積み立てると、とりあえず課税所得は450万円に減ります。
また、従業員の積立額に応じて企業が追加で積み立ててくれる制度もあり、実質的なボーナスになります。
運用先はプランによって異なり、一般的には株式や債券など流動性の高い資産を運用するファンドから選びます。例えば、米国大型株ファンド、外国株ファンド、米国債ファンドなど二、三十個の選択肢の中から1つ以上を選択します。複数選択する場合は資産配分を設定します(例:Aファンド70%、Bファンド30%)。なお、個別銘柄(例:エヌビディア株)への直接投資はできません(自社株投資があることはある)
米国内国歳入法には運用対象を株や債券に限定する文言はありませんが、従業員退職所得保障法で「流動性が高く、公正な評価が可能で、適切な分散投資ができる」資産で運用することが求められています。
従業員退職所得保障法は、民間企業が提供する年金や退職金制度の健全性を確保するための法律で、労働省がこれをもとに401kのガイダンスを作成しています。
401k大統領令の内容
今回署名された大統領令の正式名称は「401(K)投資家のためのオルタナティブ資産へのアクセスの民主化」です。オルタナティブ資産とは、株や債券などの伝統的資産以外の資産のことで、たとえば、不動産、未上場株、コモディティ、暗号資産などが含まれます。
現在、富裕層や公務員向け年金ではオルタナティブ資産に投資できますが、9000万人を超える民間企業の401k加入者はその機会がありません。この格差を是正するため、トランプ大統領は労働省に対し180日以内に既存の指導・ガイダンスを見直し、必要に応じて撤回することを命じました。財務省やSECなど他の規制当局との協議も指示しています。

401Kの暗号資産投資は認められるか?
2022年に、労働省は401kの運用先に暗号資産を加えることについて「極めて慎重であるべき」とガイダンスしたことがあります。
理由は、暗号資産の「高いボラティリティ、評価の難しさ、保管と管理の難しさ、詐欺や盗難のリスク、未登録証券とみなされる可能性」などを挙げています。このガイダンスは今年2025年に撤回されたので、これから労働省は現状に即して暗号資産の再評価を行うと考えられます。
下図実線は、ビットコインと米国株価指数S&P500のヒストリカルボラティリティ200日移動平均線です。ヒストリカルボラティリティは価格の変動率が平均からどれだけブレやすかったかを表した数値で、数値が大きいほど価格変動が大きいことを意味します。
なお、ビットコインは年中無休で取引できるのでルックバック期間は30日(年営業365日)、株式市場は土日休場によりルックバック期間20日(年営業250日)で計算しています。
ビットコインは株価指数よりも大幅にボラティリティが大きいですが、平均線は低下傾向にあり、2023年以降は50を超えることが極端に少なくなっています。

その他、労働省が懸念している「暗号資産の保管と管理の難しさ、詐欺や盗難のリスク」については、2024年にアメリカ初のビットコインETFが承認され、証券取引所に上場しているので、401kの運用先をビットコインETF経由にすれば、それらの懸念は大幅に軽減します。
「未登録証券とみなされる可能性」については、8月8にSECとリップル社の法廷闘争が完結し、XRP自体は有価証券ではないことが確定したのと、現在審議中のCLARITY法案によって、「証券に該当する暗号資産」と「証券に該当しない暗号資産」を判別する明確な方法が確立される見通しとなっています。
以上から、労働省が401kでの暗号資産投資を認める可能性は十分にあると考えられます。
ビットコイン価格への影響
2025年Q1時点で401(k)の運用残高は8.7兆ドル(約1281兆円)です。暗号資産に投資するかどうかは加入者の選択次第で、全ての401(k)が即時に暗号資産を導入するわけではないため、普及は段階的になる見込みです。
導入までの流れは以下のようになると考えられます。
- 労働省が既存ガイダンス見直し案を策定・公表(180日以内)
- パブリックコメント期間(30〜90日)
- 最終版を発表
- 施行日までの猶予期間(数ヶ月)
- プラン提供者が新商品を設計・承認(数ヶ月)
- 企業がプランに追加(数ヶ月)
上記の流れから、実際に401kの運用先に暗号資産ファンドを指定できるようになるのは早くても1年以上、長いと数年先と考えられますが、運用残高の1%が暗号資産に向かうだけでも、800〜900億ドル(約12〜14兆円)の新規需要が発生し、これは現在のビットコイン時価総額の3〜4%に相当します。
さらに、401kも含めたアメリカ全体の確定拠出年金の運用残高は12.2兆ドル(約1803兆円)あり、もし、401kでオルタナティブ投資を許可する動きが他の制度にも広がると、暗号資産への資金流入はさらに大きくなります。
401kは59歳半未満で引き出すと大きなペナルティがあるため長期運用が前提となります。21歳で加入すれば39年間の超長期投資です。給与天引きによる自動かつ安定した資金流入が長期間続くことは、ビットコイン価格にとって強い下支えとなります。
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