日本にビットコインATM2500台設置は元詐欺コインの汚名返上劇か?
暗号資産交換業者のCoinHub(コインハブ)が、日本に暗号資産ATMを2500台設置する計画を発表しました。
今年秋から設置を開始し、最初は25台前後、早期に100台、最終的には2500台を目指す計画となっています。もしこれが実現すれば、日本は世界有数の暗号資産ATM設置国となります。
設置場所は、大型ショッピングセンター、百貨店、駅ナカ商業施設など、まるでコンビニATMのように気軽に暗号資産を購入・売却できる時代が訪れようとしています。
しかし、この話には一つの不気味な側面があります。そこで、この記事では、その背景にある過去と現在のつながりを紐解きながら、日本の暗号資産の未来にも関わるかもしれないこの現象について考えます。

ATMとは
ATMとは「Automatic Teller Machine」の略で、日本語の正式名称は自動現金預払機です。1967年にイギリスで世界初の銀行ATMが設置され、日本では1969年から銀行での導入が始まりました。その後、郵便局、コンビニ、駅、ショッピングセンター、空港などへと広がっていきました。
全国のCD(引き出し専用)+ATMの設置台数は2018年の20万台弱をピークに減少傾向にあり、背景にはコンビニATMの増加が頭打ちになったことや、キャッシュレス決済の普及によって銀行ATMの利用が減少しているため、銀行がコスト削減のために撤去していることが挙げられます。

暗号資産ATMの登場
2009年にビットコインが誕生し、2013年にカナダのバンクーバーに世界初の暗号資産ATMが設置されました。
その後、設置が拡大して、2017年に1000台を突破、2020年に1万台を突破、2021年に爆発的な増加を見せ、2022年に3万9986台の過去最高を記録しました。2025年現在の台数は約3万8500台で、少し減少傾向にありますが、再び過去最高を更新する可能性も見えています。

一方、日本では2017年まで暗号資産ATMの設置台数は増えていましたが、2017年の資金決済法の改正により、暗号資産交換業者の登録が義務付けられ、ATMの設置は登録済み業者に限定されました。加えて、KYC(本人確認)が義務化されたことで、すべての暗号資産ATMが日本から撤去されて、絶滅しました。
その後2022年、株式会社ガイアが暗号資産ATMを設置し、東京タワーに実物が登場したことで注目を集めましたが、現在、日本で稼働している暗号資産ATMは数台だけです。
日本企業コインハブとは
コインハブは2014年にBITOCEAN(ビットオーシャン)という社名で設立された日本の企業です。
2017年に金融庁に暗号資産交換業者として登録され、2022年に社名を現在のコインハブへと変更しています。
コインハブの大きな特徴は、日本の暗号資産「RYOコイン」に買収された点です。コインハブの植原代表がRYOコイン関連のイベントでスピーチしていることからも、両者の結びつきの強さがうかがえます。

RYOコインはトゥルーライフコイン(TLC)とも関係があるので、コインハブ、RYOコイン、コインハブの関係を次にまとめます。
トゥルーライフコインの登場
RYOコインの起源は、True Life Coin(トゥルーライフコイン、TLC)という暗号資産にあります。
トゥルーライフコインは2015年に登場した日本の暗号資産で、ビットコイン開発者のサトシ・ナカモトが開発する「第2のビットコイン」であることを売りに、サウジアラビア政府やレディー・ガガが出資するという華々しい宣伝文句も添えて、注目を集めました。
マルチ商法で、連鎖的に購入者を増やしていき、日本人投資家から巨額の出資を集めました。マルチ商法は、商品の購入者が他の人に商品を紹介して販売が成立すると報酬が得られる販売手法のことです。
しかし、結果的にサウジアラビア、レディー・ガガ、サトシナカモトの関与は今でも確認されていません。
そして、トゥルーライフコインは上場を匂わせながら10年が経過し、今もどこにも上場していないので、詐欺と言われても仕方がない状況となっています。
RYOコインの登場
トゥルーライフコインに続いて登場したRYOコインは、トゥルーライフコインと同じユニグローバル・ホールディングス・リミテッド社が商標を登録し、関連会社の入居ビルの場所は一致しています。また、トゥルーライフコインの関係者がRYOコインに深く関わっていることから、両者の実質的なつながりは明らかとなっています。
RYOコインは、暗号資産交換の一口100万円転換社債を販売し、高齢者を中心に出資金を集めました。
トゥルーライフコイン出資者に対しては、トゥルーライフコインをRYOコインに交換する対応が実施されましたが、出資者の多くは情報リテラシーの低い年配者で、何をすればよいのか分からず途方に暮れました。
なんとか交換に成功できた人も、今RYOコインを売却すると出資額に対して巨大なマイナスという無残な結果となるため、売るに売れずに、RYOコインの活躍と爆上げを信じて保有し続けている人もいます。
RYOエコシステムは、大きく分けて以下の4つで構成されています。
- トークン(RYOコイン)
- グローバルモール(ショッピング施設)
- ウォレット(ライフ・ウォレット)
- Web3 ATMネットワーク(暗号資産ATM)

コインハブの暗号資産ATM
以下の写真は、コインハブが公開した暗号資産ATMの写真です。
RYOエコシステム図のATMと外観が酷似していることから、コインハブのATMにもRYOコインが関与している可能性が高いことが分かります。

コインハブのATMはネットニュースだけでなく、新聞の一面にも掲載されました。

このATMの特徴のひとつが、「KYC不要」です。

音声解説では以下を語っています。
(女性)氏名、住所、電話番号。これだけでOKて書いてあって。普通、暗号資産って言ったら免許証とかマイナンバーカード出して写真撮ってなんか色々あの面倒な本人確認が必要じゃない?
(男性)はい。いわゆるKYCですね。 法律で義務付けられています。
(女性)それが結構ハードル高いなって思ってたんだけど、それが一切無しってこれちょっと革命的じゃない?
(男性)まさにそこが今回の一番のポイントかもしれません。もちろん利用限度額とか何かの条件はあるとは思うんですが、それでもあの複雑な KYC プロセスをこのレベルまで簡略化できたというのは本当に画期的です。
RYOプロジェクト徹底解説ラジオ
上記説明から、少額に限ってKYCが簡略化されるだけと考えられますが、それでもKYCフル対応が常識となった現在の日本においては異例の措置です。
日本で暗号資産ATMは普及するか?
暗号資産ATMの設置数が世界一の国はアメリカです。銀行口座やクレジットカードが不要で、手元の紙幣をすぐにビットコインの交換可能という手軽さがアメリカ人に受けて普及が始まりました。
初期の頃はKYC(本人確認)不要なATMがほとんどだったので、プライバシーを重視する人にもATMの人気があり、匿名性はビットコインATM普及の追い風になりました。
しかし、2019年以降の規制強化によって、ほぼすべてがKYC対応となり、現在は少額のみKYC不要のATMが一部残っている程度となっています。
アメリカでは、銀行口座を持たないアンバンクト層の存在も暗号資産ATMの需要を支えています。2024年のFRBレポートによれば、成人の6%が銀行口座を持たず、所得2万5000ドル未満の成人は23%が銀行口座を持っていません。

このような背景から、アメリカでは現在も約3万台のATMが稼働しています。
現在、暗号資産ATMの増加ペースの伸びに一番勢いがあるのはオーストラリアです。2023年から増加ペースが加速し、現在は1800台に達しています。
背景には、暗号資産の普及と北米企業の積極的な進出。オーストラリアの主要銀行が、暗号資産の詐欺対策として、暗号資産取引所への送金に制限を設けているなどが挙げられます。
日本では成人の98%以上が銀行口座を持っており、アンバンクト層のニーズは極めて少ないと考えられます。そのため、暗号資産ATMの設置が広く活用されるのかは未知数であり、別のニーズを発掘する必要がありそうです。
元詐欺コインがATMで汚名返上なるか
以上のように、今年秋から設置が開始される暗号資産ATMには、日本の暗号資産交換業者のコインハブ、RYOコイン、トゥルーライフコインが関係しています。
トゥルーライフコインは詐欺と言われても仕方がない状況となっていて、その関連会社が発行するRYOコインがコインハブを買収し、暗号資産ATMを設置をするという流れになっています。
トゥルーライフコインとRYOコインは、高齢者を中心に巨額の出資を集めることに成功したので、集めた資金と暗号資産交換業者を使えば、2500台は無理でも、暗号資産ATMの設置自体が実現してもおかしくはありません。
過去に、RYOコイン運営は「RYOを基軸とした暗号資産ATMを、2024年中に全国に200台設置する。」という計画を発表しているので、ATMの設置がうまくいけば、対応通貨にRYOコインが追加される日がくるのかも知れません。
はたして、コインハブの暗号資産ATMが設置されニュースになったとき、日本社会は受け入れるのか。この流れは単なる便利なATM設置の話ではなく、暗号資産の信頼性そのものに関わる問題に発展する可能性もあります。
設置開始について日本暗号資産取引業協会(JVCEA)はどんなアナウンスをするのか要チェックします。