暗号資産相続は10ヶ月以内に秘密鍵を見つけないと延滞税、加算税が課される

アンゴロウ

国会で以下の質問が出ました。

【国会】参院決算委員会(2025年4月21日)

これは問題です。

何が問題なのかを順を追って説明します。

まず、相続とは、人が亡くなったときに、その人が持っていた財産や権利、借金などを誰かが引き継ぐことをいいます。

遺産を残す人のことを「被相続人」

遺産を受け取る人のことを「相続人」といいます。

相続したとき、その財産にかかる税金のことを相続税といいます。

下表は相続税の税率です。金額が大きいほど税率が高くなります。

課税価格税率控除額
1,000万円以下10%0円
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

相続税の申告と納付には期限があり、被相続人の死去10か月以内に完了しなけらばならず、期限を過ぎたら延滞税と加算税が課されます。

延滞税は「遅れたことへの利息」

加算税は「ミスや不正への罰金」のイメージです。

期限内に申告と納付を済ませたとしても、あとで申告漏れやミスが見つかって修正申告すると、修正したぶんの延滞税と加算税が課されます。

現在の延滞税の税率は年8.7%です。

延滞税の年率は「14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のうち、低い方の割合が適用されるので、今後14.6%まで上がる可能性があります。

下表は過去の延滞税の税率です。2010年までは14.6%でした。

(※)2014年までは税率が上がる境目は「1ヶ月」

期間納期限から2ヶ月以内(※)納期限から2ヶ月超(※)
1999年12月31日まで年7.3%年14.6%
2000年~2001年末年4.5%年14.6%
2002年~2006年末年4.1%年14.6%
2007年~2007年末年4.4%年14.6%
2008年~2008年末年4.7%年14.6%
2009年~2009年末年4.5%年14.6%
2010年~2013年末年4.3%年14.6%
2014年~2014年末年2.9%年9.2%
2015年~2016年末年2.8%年9.1%
2017年~2017年末年2.7%年9.0%
2018年~2020年末年2.6%年8.9%
2021年~2021年末年2.5%年8.8%
2022年~2025年現在年2.4%年8.7%

下表は加算税の税率です。

加算税の種類税率(基本)
過少申告加算税10%(基本)
15%(追加税額が50万円超)
無申告加算税5%(自主的に期限後申告)
15%(税務調査後、50万円以下の部分)
20%(50万円超300万円以下の部分)
30%(300万円超の部分)
重加算税(悪質の場合)35%(過少申告の場合)
40%(無申告の場合)

このように、相続税を期限までに申告しなかったり、申告内容にミス・不正があった場合、延滞税と加算税が課されますが、これは暗号資産の相続に限らず、すべての遺産に関していえることです。

なら、平等でいいんじゃね?と思いそうですが、

暗号資産は「一体どれだけの資産を保有しているのかというのが相続人にはわからない」という状況が他の資産よりも発生しやすい特徴があります。

例えば株の場合は、証券会社に連絡し、相続の証明などの手続きをすれば被相続人の口座情報を確認できます。

不動産なら役所に行って登記簿を取れば、確認できます。

一方、暗号資産が個人ウォレットに保管されている場合、その暗号資産を管理している第三者機関は存在しないため、相続人はどこかに問い合わせる手段が使えず、被相続人のウォレットのパスワード、または、秘密鍵、リカバリーフレーズを見つけ出さないかぎり、資産の把握も移動もできないという状況に陥ります。

その後、何とかウォレットのパスワードを見つけ出したとき、死去10ヶ月以上が経過していたら問答無用に延滞税、加算税が課されるという流れです。

結局、最後までウォレットのパスワード、秘密鍵、リカバリーフレーズが見つからなかったらどうなるのか?については

被相続人が保有する暗号資産が全く分からないままなら課税されないので問題ありませんが、保有する暗号資産が特定された場合、暗号資産を移動できるできないに関わらず課税対象になるので注意が必要です。

例えば、相続人は暗号資産の相続を諦めて他の遺産を相続したとしても、まだ安心できません。

なぜなら、その後の税務署の調査で、被相続人のウォレットアドレスが特定されるなどして保有銘柄と数量が明らかになった場合、その暗号資産を動かせるかどうかに関わらず相続税、延滞税、加算税が課されることになるからです。

相続税法には、遺贈又は死因贈与により「取得した財産」は相続税の課税対象となることが書かれていて、「取得した財産」 は法律上、相続人に権利が移った財産を指し、実際に利用できるかどうかは関係ないと解釈されています。

このように、相続税は「財産が存在する限り課税する」という考え方に立っていて、たとえ現金だろうが、不動産だろうが、「受け取れなかったら課税しない」という運用は認められておらず、暗号資産だけ特別扱いにする理由が法律上立ちにくいため、「移動できない暗号資産を相続税の対象外にする」ような法改正が行われる可能性は低いです。

しかし今後、暗号資産の普及とともに、

▶「動かせない資産は本当に経済価値がない」
▶「動かせないのに税金を取るのはおかしい」

という意見が広がり、アメリカで特例措置ができるなど国際的な動きが見られた場合、日本も法改正の見直し検討をする可能性はわずかにあると思います。

国会で質問した串田誠一議員は、元弁護士、法政大学大学院の元教授、相続制度に関する問題に関心を持つ議員です。法律家としての経験を活かし、今後も相続制度の改善に寄与することが期待されています。

<暗号資産相続の延滞税、加算税の新しい情報を見つけたら、ここに追記>