イーサリアムが性能10倍を宣言したので100万円いくか

アンゴロウ

先日開催されたイーサリアムのイベントで、イーサリアム創始者のヴィタリック・ブテリン氏が、今後1年でイーサリアムのL1の処理性能を10倍にする計画を発表しました。

性能10倍と聞くと、「サクサク動いて使いやすくなる!」、「利用者が増えてイーサリアムの価格が爆上げするかも」と想像した人もいると思います。

そこで、この記事では「イーサリアムの処理性能が10倍になったら価格は100万円を突破するのか?」というテーマで、各種情報をもとに考察してみます。

イーサリアム爆上げに必要なこと

イーサリアムは現在、世界で最も広く使われている分散型アプリケーション(dApps)のプラットフォームです。

分散型アプリとは、ブロックチェーン上で動くアプリケーションのことです。

例えば、ゲームアプリなら、プレイ結果やアイテムなどのデータをブロックチェーンに記録することで不正や改ざんを防止します。また、ゲーム内アイテムはNFTとしてプレイヤーが自由に売買できるというメリットもあります。

分散型アプリのプラットフォームはイーサリアムだけではなく、ソラナ、カルダノ、BNBチェーン、SUIなどさまざまなブロックチェーンが存在しており、これらは「イーサリアムキラー」とも呼ばれます。

数あるプラットフォームの中で、利用者を獲得したブロックチェーンの暗号資産が、時価総額ランキングの上位に位置するのは間違いありません。

つまり、イーサリアムが爆上げするために必要な土台は、分散型アプリ対応プラットフォームとしての評価を高め、イーサリアムキラーを寄せ付けない圧倒的な安心感です。

イーサリアムの評価

分散型アプリ対応プラットフォームとしての評価は、以下の5つの観点から語ることができます。

① 分散性

特定の管理者が存在せず、ネットワークが広く分散されていることで検閲耐性が高まり、信頼性も強くなります。

イーサリアムのノードは世界中に分散し、バリデータ数は108万で、他を圧倒しています。

ソラナは1000〜3000、ポリゴンは約100、BNBチェーンは45(選出制)で、バリデータ数でイーサリアムと肩を並べるイーサリアムキラーは存在しません。

② セキュリティ

ネットワークが攻撃や不正から守られ、資産やデータが安全に保たれるための防御力のことです。

イーサリアムのL1はこれまでハッキングゼロ。100万超バリデータという圧倒的な分散によるセキュリティだけでなく、多様なクライアント設計、第三者監査、自動検査ツール、バグ報奨金制度が揃っており、予防・対処の両面で優れたセキュリティを実現しています。

③ 持続可能性

ブロックチェーンが、電力・コスト・開発体制などの面で無理なく、長期にわたり安定運用ができる可能性です。

イーサリアムは承認アルゴリズムの変更によって、消費電力を99.95%削減。手数料の一部をバーンする仕様変更によってインフレ対策に成功。レイヤー2の普及で実用コストが大幅に低下しています。レイヤー2についてはこのあと詳しく説明します。

④ エコシステム

エコシステムの大きさがブロックチェーンの将来性に直結し、利用者・開発者の数が多いほど、より便利に、成長しやすく、価値が高まりやすくなります。

イーサリアムの分散アプリの数は5000で業界2位、ブロックチェーンにロックされている暗号資産の金額は1位、開発者数も1位です。

⑤ スケーラビリティ

大量のユーザーとトランザクションに耐えられる処理性能の高さのことで、1秒あたりの処理件数(TPS)が指標として使われます。

イーサリアムの現在のリアルタイムTPSは15件/秒で17位。理論上の最大は119件/秒で、他の主要ブロックチェーンと比べて低いです。これが弱点。

イーサリアムはこの弱点を、レイヤー2(L2)による拡張で改善しています。レイヤー2とは、トランザクションをブロックチェーンの外部で処理し、最後にまとめてメインチェーンに投稿することで処理速度とコストを改善する機能です。

イーサリアムのレイヤー2はたくさん存在し、スループットが一番早いのはアービトラム。アービトラムは実運用でのTPSは数百~数千、理論最大TPSは4万(見込み)あります。

しかし、レイヤー2を使っても、最終的にL1に投稿する必要があるため、どうしても処理完了までに遅れが生じ、速度面では限界があります。

また、どのレイヤー2を使うかユーザーが選ぶ必要があることや、ブリッジに手間がかかるなどシームレスでは無く、使い勝手がいまいちという課題も残っています。

ソラナとの比較

ソラナは、「1つの高速L1ネットワークですべて完結する設計」で、UXが非常にシンプルです。並列処理エンジン搭載で、処理・保存・検証の全てを1ネットワーク内で実行可能です。

イーサリアムとソラナを比較すると、リアルタイムTPSは1273件でイーサリアムの80倍、理論最大TPSは6万5000件で、イーサリアムの546倍もあります。

イーサリアムとソラナの性能にここまで大きな差がある主な理由は、設計思想の違いです。

イーサリアムは「分散性と安全性優先」の設計に対し、ソラナは「処理速度最優先」の設計であり、高性能ハードウェア前提で処理を最適化、並列処理によって、とにかくスピード、低コスト、リアルタイムを重視した設計になっています。

しかし、高速化の代償として、いくつかの懸念も存在します。高性能なPC環境を前提とした設計であるため、誰でもノードに参加できるわけではなく、分散性に制限があるとの指摘があります。

また、バリデータの多くが財団の支援に依存していることから、ネットワークの運営が中央集権的だという批判もあります。さらに、過去にはBot攻撃やバグの影響で、ネットワークが数時間以上にわたって停止した事例も複数あり、その安定性には不安が残るという声もあります。

ソラナの中央集権事件

ソラナでは、過去に無制限トークン発行の脆弱性が発覚した際、ソラナ財団はバリデータと連携して非公開で修正パッチを適用しました。

この対応により「財団が非公開でネットワークを変更できる力を持っているのでは?」という懸念がコミュニティに広がりました。

しかし、イーサリアムも重大な脆弱性対応は非公開でしたことがあり、重大なセキュリティバグに対して非公開で対処するのは業界の慣例となっているから問題ないという意見もあります。実際、イーサリアムの主要クライアントのGethも重大な脆弱性に対しては「サイレントパッチ」と呼ばれる非公開の修正を行っています。

ただし、ソラナはクライアントが1つしかなく、重大なバグが見つかるとネットワークが停止するリスクがあるのに対し、イーサリアムのクライアントは5種類以上あるので、1つに重大なバグがあっても他のクライアントが補完して全体が停止しない構造のため、その面でもイーサリアムの方がセキュリティが高いといえます。

SUIの中央集権事件

SUIは旧リブラ(Diem)の元エンジニアが開発する高性能ブロックチェーンです。「TPSは12万件」と言いながら登場して話題を呼びました。

2025年5月、SUIブロックチェーン上の分散型取引所Cetus(セタス)がハッキングされ、約2.2億ドル(320億円)相当の暗号資産が盗まれました。

これを受けて、SUIのバリデータが連携して攻撃者のアドレスを凍結、これらのアドレスからのトランザクションを拒否することで約1.6億ドル(233億円)の暗号資産を凍結し、凍結した資産の扱いについてオンチェーン投票によって、被害を受けたユーザーへの資産返還が可能となりました。

これは一見、素早い対応でめでたしめでたしですが、バリデータがネットワークを操作できるという事実は「分散性が低い」ことの証明でもあり、ブロックチェーンの信頼低下につながります。

イーサリアムは100万円にいくか

以上のように、ソラナやSUIといった超高速ブロックチェーンが、スピードやコスト効率の面で優位性を示し、開発者やユーザーの関心を集めています。さらに、トランプ大統領の政策はアメリカファーストのため、アメリカ拠点の暗号資産を優遇する可能性があり、ソラナ、SUIはアメリカを活動拠点のため、価格の追い風になっています。

イーサリアム建てソラナの価格は、1年半で13倍になりました。

イーサリアム建てSUIの価格は8ヶ月で10倍になりました。

ただし、両者とも中央集権事件のあとにはイーサリアムに対して急落し、風向きが変わりつつあります。

ブテリン氏の宣言どおりに、イーサリアムのL1処理性能が1年で10倍になれば、L2の処理効率もある程度向上すると考えら、それでも処理性能はソラナやSUIの方が上ですが、イーサリアムの改善が進み、弱点が克服されつつあるという評価は価格にプラスです。

さらに、将来的にイーサリアムにシャーディング(並列処理)が実装されれば、L2と組み合わせて10万TPSも実現可能という見通しもあります。

さらさらに、イーサリアムのユーザーがL1かL2かを意識せず、ただETHを使うだけで完結するようになれば、イーサリアムの利便性は大幅に上がり、イーサリアムキラーと比較した弱点がすべて克服され、死角なしの状態になります。

そうなったら爆上げモード

いくらになるか

現在のイーサリアムの時価総額はビットコインの約7分の1。2022年前後は2分の1だったこともあります。

仮にビットコイン価格が据え置きで、イーサリアムが再び時価総額比で2分の1まで戻れば、イーサリアムの価格は130万円を超える。

一方、イーサリアムがのんびりしている間に、ソラナやSUIがさらなる分散性改善を果たし、開発者と利用者の移行が進んでイーサリアムの市場シェアを逆転するなんてことになった場合、イーサリアムはキラーされて暴落することになるので、市場シェアの変化は要チェック。

今後も分散型プラットフォームの市場シェアを観察し、大きな動きがあったときは報告します。