日本が対外純資産世界一から転落はビットコインの買いシグナルである理由
33年続いた日本の「対外純資産世界一」が、ついに終わりを迎えました。
日本の対外純資産は前年比+12.9%の大幅増で533兆円になりましたが、ドイツがそれ以上に増加して569兆円となり、世界一になりました。

その他、2位は中国、3位香港、4位ノルウェー
中国の増加ペースも速いので、中国に抜かれる日も近いです。

日本は1990年にバブルが崩壊し、その後1991年から2024年までずっと対外純資産の世界一を守り続けてきました。
そこでこの記事では、日本の対外純資産世界一が終わったことが意味することを解説し、ビットコインの買いシグナルなのかを予想します。
対外純資産とは
まず、対外純資産とは何かを簡単に押さえておきます。
対外純資産とは、対外資産(自国が外国に持っている資産)から、対外負債(外国が自国に持っている資産)を差し引いた金額のことです。
たとえば、日本の政府・企業・個人が保有している外国の株式、債券、不動産、貸付金、預金などが対外資産にカウントされます。
逆に、外国の政府・企業・個人が日本に保有している株式、債券、不動産、預金などは対外負債に含まれます。(カウント対象はまだある)
注意が必要なのは、「自国の資産」はカウントされないこと。たとえば、日本人が日本株をいくら買っても、対外資産には1円も加算されません。
また、日本人が外国の資産を買うと対外資産は増えるけど、それ以上に外国人が日本の資産を買っていたら日本の対外純資産はマイナスになります。
たとえば、アメリカは外国に投資をしているものの、それ以上に外国人が米国に投資しているため、アメリカは世界最大の対外純負債国になっています。
その他、美術品、骨董品、ジュエリーなどは評価が主観的だったり流動性が低かったりするため、対外資産としてはカウントされません。
「対外純資産が世界一の国」と聞いてイメージしそうなのは、
倉庫の棚にゴッホやピカソなどの有名絵画や、中国古来の壺や、エジプトの王冠や、高級腕時計や高級ジュエリー、金銀財宝が並べられているのをイメージしそうになりますが、実際に倉庫に並べられていたとしても対外純資産には1円もカウントされません。政府が保有する外貨準備金の金はカウントされます。

以上のように、対外純資産は「自国が外国に保有する資産」と「外国が自国に保有する資産」の差額を表したものなので、「お金持ちの国かどうか」ではなく、「外国に対してどれだけ資産を持ち、どれだけ借金をしているか」を測る指標です。
実際、アメリカは世界最大の経済大国ですが、対外純資産では世界最下位です。一方、香港やノルウェーはGDPで上位ではないものの、対外純資産では世界トップクラスに入っています。
日本の対外純資産
日本は1980年代、自動車や電子機器などの輸出産業で成功し、巨額の貿易黒字を出す輸出大国となりました。その結果、大量の外国通貨が日本に流入し、経常収支は黒字、外国への投資も増加。1991年に対外純資産世界一に輝きました。
「ジャパン・アズ・ナンバーワン」
その後、33年連続で日本は世界一の地位を維持してきました。バブル崩壊後の経済停滞を経ても、外国に持つ資産の力で日本経済は一定の信用を維持してきたのです。
しかし、下図の黄色の縦棒を見ると分かるように、2008年のリーマンショック以降、貿易収支は次第に悪化。2011年以降は貿易赤字の年が増え、2022年には過去最大の貿易赤字を記録しました。

それでも日本の経常収支は黒字を維持した理由は「第一次所得収支」が巨額だからです。
第一次所得収支は海外との利子・配当・給与などの受け取りと支払いの差額のことで、大部分は投資収益(利子・配当)が占めています。
日本は過去に積み上げた膨大な対外資産から得られる利子・配当の収入が大きく、それが貿易赤字をカバーして経常黒字を維持し、外国資産への再投資によって対外純資産の世界一が続いてきました。
このように、日本は輸出で稼ぐ輸出大国から、投資収益で稼ぐ投資大国へと変貌しています。
なぜ日本が世界一から転落したのか
今回、日本の対外純資産は前年比+12.9%で過去最高を更新しました。にもかかわらず、世界一をドイツに奪われました。さらに中国も急激に伸びており、来年には日本を抜く可能性が十分にあります。
なぜ日本が抜かれたのか?
それはドイツや中国が経常収支全体でも高い黒字を維持していることに加えて、第一次所得だけでなく、貿易そのものでしっかりと黒字を出しているため、対外資産の伸びも速いからです。
現在のドイツは世界有数の貿易黒字国、中国も輸出量が多く、黒字額は世界最大クラスです。
一方、日本は貿易赤字を第一次所得でカバーしているため、資産増加のスピードに限界が出ています。
日本円が安全通貨だった理由
対外純資産が多い国は、国際的な債権国とされ、経済危機や為替変動時にも強いと見なされ、自国通貨や国債への信頼が高まりやすい特徴があります。なぜなら、他国に持っている資産が多いため、いざというときに外貨での支払い能力が高く、国家としての信用が維持されやすいからです。
さらに、金融・経済が安定し、慢性的な経常黒字、デフレで通貨価値が下がりにくい国の通貨の信用は高いです。
日本円が長年、「安全通貨」として世界中から信頼されてきた背景には、まさにこの経済の信頼と対外純資産世界一という実績があるからです。
しかし現在、日本はG7の中で最も高いインフレ率(37か月連続で2%以上)を記録し、生活必需品の価格も急騰しています。2024年から米の価格が1年で2倍になるなど、庶民の生活にも影響が及んでいます。
もしこのままインフレが続き、貿易赤字が第一次所得を上回って経常赤字なんて事態になると、対外純資産も減少し、日本円の信用低下が懸念されます。
今後の日本とビットコイン
では、今後の日本円はどうなり、私たちはどうすればいいのか
日本円の今後は政府がどのような財政政策を取るかがカギになり、政策方針は大きく分けてジリ貧パターンと復活パターンの2つに分けられます。
ジリ貧パターンは「プライマリーバランス(PB)黒字化」を意識した健全財政です。これは借金の利子を除いた歳出を、税金などの歳入だけでまかなう政策のことで、日本政府はこの方針を重要視しています。
この路線は目先の信用維持には効果がありますが、国内消費や投資が冷え込み、今までどおり産業が育ちにくく、イノベーションが抑制され、貿易赤字、失われた30年の延長となり経済がジリ貧で衰退して、ゆっくりと日本円の価値が低下していくことになります。
もう1つの復活パターンは積極財政。大胆な財政出動で景気回復を狙う方法です。
政府が大胆に支出して経済を立て直すことで国内需要を喚起し、公共投資や補助金で生産力を向上し、国内産業の競争力を高めることで輸出増=貿易赤字解消につながりますが、ジリ貧パターンより円安やインフレが加速しやすいです。
先日、自民党と公明党は経済対策の話し合いで「赤字国債を発行しない」ことを確認しあったので、ジリ貧パターンを選択するのが今のところ優勢です。

日本は失われた30年でほとんどインフレを経験せずにいたため、潜在的インフレ圧力が他国よりも高く、このあとインフレせずに経済が大復活するパターンはありえません。
どのみちインフレの波が襲ってくるなら、インフレに強い資産を持つべき
ビットコインは、政府の信用に左右されない分散型のデジタル資産で、インフレによって法定通貨の価値が下がる局面では、資産の価値を守る手段として機能する可能性があるため、分散投資の有力候補になります。
日本が対外純資産世界一から転落したという事実は、経済構造の転換点であり、同時に通貨の信頼性にも変化が訪れていることを意味します。
長期的に見れば、これは日本人にとってビットコインをポートフォリオに組み入れる買いシグナルといえるでしょう。