伝説の空売り王が、ビットコインを空売りぜすに買いまくっている
空売りとは、将来の値下がりを見越して「売り」から入る投資手法です。
たとえば、証券会社からA株を100万円分借りて市場で売却し、後にそのA株が10万円に暴落したときに買い戻して返却すれば、差額の90万円が利益になります。つまり、下落局面でも利益を得ることができるのが空売りの特徴です。
これまで空売りで名を馳せた伝説的な投資家たちがいます。たとえば1992年、ジョージ・ソロスはイングランド銀行の介入に逆らって英ポンドを空売りし、10億ドル超の利益を得て「イングランド銀行を潰した男」として名を馳せました。
その他、ジェシー・リバモア、デヴィッド・アインホーンなど空売りで歴史に名を残した投資家は他にも存在します。
そして2025年5月、「空売り王」ジム・チェイノスが帰ってきて、ビットコインを空売りせずに買ったというニュースが飛び込んできました。


「空売り王」ジム・チェイノスとは何者か?
チェイノス氏は、企業の不正や過大評価を見抜く能力に長けていて、公開情報(財務三表など)+業界知識+人脈を活用した徹底的な調査によって、企業の不正を暴き、空売りをしかけることを得意としています。
1985年に空売り専門の投資会社を設立し、エンロン、ワイヤーカード、ラッキンコーヒー、ハーツなど多くの企業の不正をいち早く見抜き、空売りで巨額の利益を上げました。特に2001年のエンロン破綻を予見し、大成功を収めたことで「空売り王」と呼ばれるようになりました。
チェイノス氏は、2023年に自分のヘッジファンドを閉鎖。その後も投資活動を続けていたものの、以前ほど注目されてはいませんでした。
ところが2025年5月、彼が新たに仕掛けたロング・ショート戦略が話題を呼び、再び注目を集め始めています。
チェイノスが狙うのはビットコイン保有会社
今回の戦略のポイントは、「ビットコインを買い、ストラテジー社(MSTR、旧マイクロストラテジー)の株を空売りする」という構図です。ストラテジー社は、企業資産としてビットコインを大量に保有することで知られる企業です。
ロング・ショート戦略とは、上がると見込んだ資産を買い(ロング)、下がると見込んだ資産を売る(ショート)を同時にすることで、市場全体の値動きリスクを抑えながら投資をする戦略です。
ビットコインとストラテジー株は強く連動しているため、一見、チェイノスの戦略は意味がないようにも思えますが、チェイノス氏は、ストラテジー株が過大評価され、割高な状況にあると判断しました。
ストラテジー株は割高なのか?
割高の根拠となるのが、ストラテジー社のビットコイン保有戦略です。同社は2020年8月からBTCの購入を開始し、主に、無利息または低利の転換社債(0%~2.25%)を発行して購入資金を調達しています。この社債は、一定条件を満たすと株式に転換できるので、投資家は元本割れのリスクを抑えつつ将来の株価上昇に期待できます。
チャートを見ると、ストラテジー社がビットコインの購入を開始したあと、BTC価格は最大9倍に上昇したのに対し、ストラテジー株は38倍になりました。
2025年5月現在のストラテジー社の保有BTCは56万8840BTC(約8.6兆円)に達しています。これに対し、ストラテジー社の株式時価総額は約16.8兆円。
約2倍
ストラテジー社はソフトウェア事業の収益もあるので、BTCの保有量=企業価値ではありませんが、企業価値の大半をビットコイン価格に依存しているので、BTCの価値に対して2倍近いプレミアムが株価についている状況です。

ストラテジー株のリスクはどこにあるのか?
ストラテジー社の戦略はビットコインの価格が長期目線で上昇し続けているときは大きな問題はないと思います。
問題が発生するとしたら、ビットコインが暴落して長期の下降トレンドに入ったときです。ビットコインが下落し、ストラテジー株も下落が続いているときは、ほとんどの転換社債は株式に転換されないので、ストラテジー社は社債を償還する必要が生じます。その場合、追加の資金調達が必要になりますが、市場が冷え込んでいれば高金利でなければ買い手がつかず、資金調達が困難になる可能性があります。
さらに、株主はビットコイン現物を保有しているわけではなく、万が一、ストラテジー社がデフォルトした場合、保有BTCは売却されて債権者に分配され、株主には何も残らない恐れがあります。そのため、ストラテジー社の資金調達困難のニュースが流れた途端に株価は一斉に売られ、下落が連鎖する「売りが売りを呼ぶ」展開になるリスクも考えられます。
チェイノス氏は、上記の展開も想定した上で、ストラテジー社の空売りに踏み切ったのかもしれません。
「世紀の空売り」バーリ氏も動いた
一方、チェイノス氏の登場と同じタイミングで、もう一人の「空売り男」の行動がニュースになりました。2008年のリーマン・ショックを予見した「世紀の空売り」で有名なマイケル・バーリ氏です。
バーリ氏は今年2025年1〜3月期に株式をほぼ全て売却。さらに、エヌビディア株と中国株に対するプットオプション(空売りと同様の効果)を購入していたことが明らかになっています。

空売り王は何を見ている。買いか?
このように、2人の伝説的空売り投資家が弱気ポジションを構築した背景には、共通の不安があるように見えます。
その一端が、トランプ関税によるインフレ率の上昇です。5月16日に発表されたミシガン大学の1年先の予想インフレ率は7.3%。これは1981年以来、44年ぶりの高水準です。
ちなみに、2022年に同指標が5.4%まで上昇した際には、実際のインフレ率は9.1%に達したので、この調査結果をもとにすると、このあとアメリカのインフレ率が10%を超えてもおかしくはないといった状況です。

チェイノス氏は「ビットコインの価格がどうなるかは分からない」と語っていますが、ビットコインの価格が暴落したら、ストラテジー株も暴落し、ロングショート戦略は何のヘッジにもならず意味ないので、少なくともビットコインは上昇するという前提に立っていると読み取れます。
一方、「世紀の空売り」バーリは、株を全部売却
空売り王に見えているのは、スタグフレーションで株価が下落するなか、ビットコインが上昇するシナリオなのかもしれません
そのような、相対的な歪みが実現するなら、ビットコインは買いです。
私は、短中期で利確する前提でビットコインへのエクスポージャーで大きな利益を狙うならビットコイン保有会社の株もありと言いつつ、インフレから資産を守るために超長期でビットコインを保有するなら、現物での保有をお勧めします。
なぜなら、ビットコインは冬の時代でも、氷河期でも乗り越えられるからです。