2025年7月17日、ホワイトハウスで開かれたトランプ政権とメディア関係者のブリーフィングで、暗号資産界隈にとって興味深いやりとりがありました。ビットコインマガジンの記者が、過去にトランプ大統領が言及した「暗号資産の支出における600ドルの少額免税措置」について、具体的なコメントを求めたのです。
これに対して政権の報道官はこう答えました。
トランプ大統領は暗号資産に対する少額免税措置を支持しています。トランプ政権は間違いなくそれを受け入れます。一杯のコーヒーを買うのと同じくらい単純に暗号通貨を使いたい人にとって決済をより簡単で効率的にするためです。もちろん今はそれは実現できませんが、少額免税措置 があれば将来的に実現できるかもしれません。それを実現するために法的な解決策を引き続き模索していきます。
この発言は、暗号資産を実際の通貨として使いたい人々にとって大きな希望と言えます。
現在の暗号資産決済の課税はこうなっている
現在のアメリカは、日本と同様に、暗号資産を買い物に使った場合、それだけで税金の計算が必要になります。米国国税庁は、暗号資産を財産として分類しており、使ったとき・換金したとき・交換したときのいずれかを行った時点で、譲渡益(キャピタルゲイン)が発生するとしています。
つまり、ビットコインでコーヒーを買った場合、それは「ビットコインを一度売却して、その現金で買い物した」と同じ扱いになります。
このときの利益は、
使用時の価格 - 購入時の価格 = 利益(課税対象)
という形で税金の対象になります。
暗号資産決済の課税をシミュレーション
以下のシミュレーションで説明します。
- Aさんは中所得者
- 2019年1BTC=5,000ドルのときに、Aさんが1BTCを購入
- 2025年1BTC=110,000ドルのときに、Aさんは5ドルのコーヒーをビットコインで購入
上記の場合、納税額はいくらになるのか計算します。
まず、Aさんの含み益は、110,000ドル – 5,000ドル = 105,000ドル
コーヒーに使ったBTC量は、5ドル / 110,000ドル = 0.00004545 BTC
コーヒーの購入に使ったビットコインの利益確定金額は、105,000ドル × 0.00004545 ≒ 4.772ドル
アメリカでは所得層ごとにキャピタルゲイン税の税率が異なり、低所得者0%、中所得者15%、高所得者20%で、Aさんは中所得者なので15%
よって、Aさんの納税額は、4.772ドル × 15% = 約0.716ドル(約72セント)
日本円でイメージすると、708円のコーヒーをビットコインで買い、確定申告で106円の税金を納めるイメージです。これを毎回の買い物で計算しなければいけません。
もし今回のシミュレーションのようにビットコインの購入履歴が単純で「きっかり1BTCだけ」ならまだしも、取引所を分けたり、複数回の購入、売却をしていると、いま使ったビットコインの利益がいくらなのかを計算するのはとても大変です。
日用品の買い物のたびに税金の計算をしなきゃいけないなんて、やってられませんよね。これがまさに、暗号資産が通貨として普及しない最大の障壁となっています。
トランプ政権の少額免税措置とは
そこでトランプ政権が支持しているのが、600ドル(約9万円)以下の暗号資産決済については、そこから生じる譲渡益を非課税とする制度です。これが実現すれば、スタバでコーヒーを買ったり、日用品を購入したりする際に、税金の心配をしなくてよくなります。
これまでにも、暗号資産の少額非課税制度を導入しようとする法案はいくつか提出されてきましたが、いずれも成立には至りませんでした。
しかし今回は今までと違い、アメリカの最高指導者であるトランプ政権がはっきりと「支持する」と明言し、さらに「法的な解決策を模索し続ける」としました。これは非常に大きな前進であり、実現への期待度はこれまで以上に高まっています。
少額免税措置が実現したら未来はこうなる
現在、アメリカの総人口は約3.4億人。そのうち成人人口はおよそ2.5億人。その中で、暗号資産を保有している人は5500万人以上とされています。つまり、成人の5人に1人が暗号資産を持っています。
日常の買い物で600ドル以上を支払うケースはそれほど多くありません。少額非課税制度が導入されれば、かなりの支出がその対象になります。
そして、アメリカの暗号資産保有者の多くは「インフレヘッジ(通貨価値の低下への備え)」を意識して保有していることも分かっています。これはNBER(全米経済研究所)の調査でも明らかになっており、インフレが長期化するほど暗号資産への期待が高まる傾向があります。
実際、アメリカでは2021年以降、4年以上にわたってインフレ率が2%を超え続けており、ピーク時には9.1%まで上がりました。
そんな状況のなか、もし600ドル以下の決済が非課税になれば、一生ドルには戻さず、暗号資産だけで生活する人が出てくる可能性もあります。
こうして消費者は税金の心配をせずに暗号資産を日常で使えるようになり、企業もビットコイン決済に対応しやすくなり、暗号資産が「使えるお金」として認知され、暗号資産の実需が一気に拡大し、結果として、ビットコインの爆上げを引き起こす原動力になることでしょう。
日本の少額非課税制度
日本には、給与所得者の場合、暗号資産取引による利益が年間20万円以下であれば原則として確定申告が不要というルールがあります。一見するとこれは暗号資産の少額非課税制度のように見えますが、実際は違います。
この「20万円の壁」があるため、毎回の決済ごとに「今の利確分はいくらか?」「年間の利益累計はいくらか?」を都度計算して、20万円を超えないように管理する必要があります。これはかなり面倒で、決済利用のハードルを高くしているのが実情です。
個人的には、暗号資産決済にかかるキャピタルゲイン税は全面非課税でいいとすら思っています。なぜなら、一般人はきちんと所得税を払ったあとの残りのお金で暗号資産を買い、価値が低下するリスクを承知して保有をしているわけであり、その暗号資産を使っただけで税金を取ること自体おかしい話です。
金融庁は、日本の未来のために、アメリカと同様の暗号資産の少額非課税制度の導入を検討するのか、要チェックします。

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