【T’s ビットコラム】ブケレの英断は輝きを放つのか

2023年7月6日

TERURON

ビットコインに魂を売った独裁者の話をしよう。
名前はナジブ・アルマンド・ブケレ・オルテス。
中央アメリカの小国・エルサルバドルの現大統領である。

2021年6月5日にビットコインを法定通貨にする発表を彼自身が行い、その3日後にはエルサルバドル議会でビットコイン法が賛成多数のスピード可決された。
そして今問題となっているビットコインマイニングに必要な消費電力の100%を、火山由来の地熱発電でカバーするクリプト推進特区・ビットコインシティ計画も発表した。
中央広場をビットコインのデザインをモチーフにしたその街では、消費税以外の全ての税金が免除される。
同時に「ボルケーノ・ボンド」と呼ばれるビットコイン債権を発行し、資金を調達。積極的に世界中から投資活動を誘致するとのことだ。
また「チーボ」と呼ばれる国家公式のビットコインウォレットを開発し、全国民に30ドル相当のビットコインを付与するなど準備に余念がない。

ブケレはビットコイン価格が暴落するたびに押し目買いを繰り返し、エルサルバドル政府のビットコイン保有数を約1400BTCとした。ビットコインの総発行枚数「2100万BTC」に、エルサルバドルの国家面積「21000平方km」をこじつけて験を担ぎ、昨年の12月21日が「21世紀2021年で最後の21日」であることから、「12月21日21時21分21秒」に合わせて21BTCを購入したりと、傍から見ればクレイジーと思われる行動も取っている。
他人のモラル、とりわけ政治家のやることに厳しい日本でこれをやったら、税金で遊んでいると揶揄され、政治生命さえも危ぶまれるだろう。

 グローバルハードマネーへの道のり

国民からの人気を集めた独裁者として、トルコ大統領のエルドアンも知られた存在だ。
景気回復と投資促進のために相次ぐ利下げを行い、リラ安を引き起こした張本人であるが、近年の支持率は低迷しており、全ての行動は来年の大統領選を見据えた利己的なものだとさえ言われている。
ダダ下がりするリラと困窮する国民の生活を背景に、ついにはリラ建て外貨定期預金で目減り分を政府が保証するという預金保護策を発表した。
これも大統領選への忖度が根底にあるものと推察される。

そんな状況の中でエルドアンは昨年12月に「トルコでの仮想通貨法案の準備が整い、議会に法案を提出する」と語った。果たしてビットコインへの部分的なシフトは、崩壊するトルコ経済の救世主となり得るか。
根っからのクリプト好きなブケレと動機は違えど、ビットコインに懐疑的だったエルドアン(仮想通貨とは戦争状態にあると公言)もまたクリプトの道を歩み始めるのかもしれない。

一方でエルサルバドルの現状はと言えば、世界有数の犯罪国家として知られており、マフィアが暗躍し違法ドラッグが蔓延している。報復殺人が相次いで起こり、アメリカに逃亡する移民も後を絶たない。
エルサルバドルの法定通貨は元々コロンという自国通貨であったが、なかなか物価が安定しないことからコロンを放棄し、2001年に米ドルを法定通貨にした。
安定通貨である円(JPY)が当たり前のように流通する日本では考えられないが、法定通貨が明日の朝には紙切れ同然になっているかもしれない国が世界にはいくつもあるのだ。

しかしながら、こうしたドル化には物価が安定する一方でデメリットもあり、他国通貨に頼ることで国としての金融や通貨政策の裁量を失い、経済の自立的な発展ができなくなってしまう可能性が高い。ビットコインに未来を託すこの政策は、勇気ある若き大統領の“大きな賭け”と言ってもいい。
彼を愚かな独裁者とみなすか、新たな時代を作る賢者とみなすか、答えを知りたいのならタイムマシンで未来を覗くより他にないだろう。

 ビットコインが映しだす、遙かなる未来

今から100年後の未来、エルサルバドルのとある家庭。
テーブルの上にはパンとスープ、高級ハムやソーセージ、地魚のソテー、色とりどりの新鮮な野菜が並んでいる。
ホテルのビュッフェを思わせる豪華なメニューだ。目の前に並んだご馳走を眺めながら、小さな女の子が母親に尋ねた。朝食時の母娘の他愛のない会話だった。

「なんで私達の国はこんなにも豊かなの?」

朝のニュース番組では、100年に一度の大恐慌により、かつて経済大国と言われたどこかの国がデフォルトした話題を取り上げていた。
首を傾げている娘に、母親は穏やかな優しい目で見つめながらこう答える。

「21世紀にブケレという大統領が、世界で最も早くビットコインを法定通貨として認めて事業を根付かせたからよ」

サトシナカモトのビットコインを始め、非中央集権型の仮想通貨の多くは富の再分配という理念を持っている。